フォスフォフィライトちゃん大好きクラブ

宝石の国からフォスフォフィライトちゃんを知ったにわかオタクが垂れ流すブログです。

フォスフォフィライトを調べる(実用編)

はじめに

 

前回の調査で、フォスフォフィライトちゃんの意外な用途を発見しました。

 

Phosphophyllite, an important material in the coating of steels for rust prevention, has been synthesized in bulk from aqueous solution. 

どうやら、これは金属の表面処理技術の1つであるリン酸塩処理(パーカライジング)に関連しているようです。

かんたんに解説します。

 

パーカライジングって?

 

必殺技みたいな響きですよねパーカライジングって。

日本にはこれにちなんで名づけられた日本パーカライジング株式会社という企業があります。せっかくなので、パーカライジングについて、この会社の説明を引用することにします。

 

パーカー処理パーカライジング法という「化学的ファンデーション」

別名パーカライジング処理(法)とも言いますが、リン酸塩皮膜を生成させる方法を総称(俗称)して言います。
リン酸塩皮膜処理とは、リン酸鉄リン酸亜鉛(下地・防錆用途)、リン酸マンガン(防錆・摺動用途)などのリン酸塩の溶液を用いて、金属の表面に化学的にリン酸塩皮膜を生成させる化成処理のことで、その昔工業用途で本格的に発展させたアメリカ、パーカー兄弟の姓をとってパーカライジング、パーカー処理と呼ばれる様になりました。 
現在では化学・学術用語にもなっています。

ふむふむ。

ちなみにこのリン酸亜鉛の部分の説明を見てみると、

 

リン酸亜鉛処理リン酸亜鉛処理・リン酸亜鉛処理・燐酸亜鉛処理

リン酸塩処理の1つで最も多く使われているのがリン酸亜鉛処理です。処理液の主成分はリン酸イオンと亜鉛イオンから構成されており、結晶性の皮膜が形成されます。皮膜の主成分はホパイトフォスフォフィライトからできています。この処理は塗装下地として広く使用されており、耐食性、密着性を大きく向上させます。また、冷間鍛造の潤滑皮膜としても使用されています。適用素材は鉄鋼、亜鉛メッキ製品が多いのですが、その他の素材への適用例もあります。処理温度は60℃以下のものが多く、常温タイプのものもあるので、使いやすいのも特長のーつです。

いた!!!! フォスフォフィライトちゃん!!!!

ちなみに、化学物質としてのフォスフォフィライトの説明も同サイトにはあります。まさかこんなところで役に立っているとは・・・。

この説明の通り、パーカライジングとは金属表面へ結晶性のリン酸塩を析出させることであり、酸・アルカリへの耐食性の向上、および塗装下地としての役割があるようです。

意外なところで役に立っているんですね。(かわいい)

 

フォスフォフィライトちゃんの兄弟,ホパイトちゃん

 

ところで、上記の解説にさらっと出てきた「ホパイト」とはなんでしょう?

日本パーカライジング株式会社の解説によれば、

ホパイトフォスフォフィライト

金属をリン酸塩処理浴にて処理するとリン酸塩皮膜が金属表面に生成されます(パーカー処理参照)。リン酸塩処理には使用目的に応じていくつかの種類がありますが、最も広く使用されているリン酸亜鉛処理を行った時に得られるリン酸塩皮膜は結晶性で、その主成分がホパイト(Hopeite)とフォスフォフィライト(Phosphophyllite)です。ホパイトはZn3(PO4)2・4H2OフォスフォフィライトはZn2Fe(PO4)2・4H2Oの化学式であらわされますが、両者とも元々は鉱物名であり、同じ結晶構造を持つものが天然に産出されます。(以下略)

 

どうやら、フォスフォフィライト(Phosphophyllite)ちゃんが鉄と亜鉛を含むリン酸塩であるのに対して、ホパイト(Hopeite)は鉄を含まないシンプルなリン酸塩であるようです。

そして、この説明によればホパイトちゃんも天然に産出するようで・・・。

調べてみたところ、ありました!!!

 

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Hopeite Mineral Data

 

フォスフォフィライトちゃんとは対照的な淡いオレンジ色ですね。

初めて発見されたのはザンビアですが、フォスフォフィライトちゃんと同じくボリビアでも産出するそうです。

物理的な性質はほぼ同一なようですが、こちらの鉱石は宝石としてカットされている様子はありませんね。宝石質の透明な結晶が産出しないんでしょうか?

 

パーカライジングの反応式

 

パーカライジングについて、詳しい文献が日本語で出ています。

リン酸塩処理の基礎

せっかくですのでこっちも見ていきましょうか。

 

この文献によれば、リン酸塩処理はpH 2~4の処理液を用いて行われるそうです。この範囲であれば、リン酸の大部分は1段階解離した状態になっています。

この処理液と鉄が接触すると、次のようにフォスフォフィライトちゃん+ホパイトちゃんの反応被膜が表面に析出します。

  1. 鉄の溶解<アノード反応> (Fe→Fe2+ + 2e-
  2. 水素イオンあるいは酸化剤の還元<カソード反応> (例: 2H+ + 2e-→H2)
  3. 鉄表面での局所的なpH増加によるリン酸塩の析出反応

 

この(3)の反応が以下の通り。

  • 2H2PO4- + 2Zn2+ + Fe2+ + 4H2O→Zn2Fe(PO4)2・4H2O + 4H+(フォスフォフィライトちゃん)
  • 2H2PO4- + 3Zn2+ + 4H2O→Zn3(PO4)2・4H2O + 4H+(ホパイトちゃん)

 

これがフォスフォフィライトちゃんの生成反応ですよ!

みなさんぜひ覚えておくように!

このように生成したリン酸亜鉛皮膜の外観色は灰白色から灰色であり、2種の結晶格子が原子レベルで混合した固溶体(混晶)となっているようです。

さまざまな条件で析出したリン酸亜鉛皮膜(フォスフォフィライト+ホパイト)の走査電子顕微鏡像による外観がこちら。

 

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リン酸塩処理の基礎(Fig. 1より引用)

 

ちなみに、この文献によれば、

 

近年におけるリン酸塩処理技術の発展は、自動車車体向けの塗装下地用リン酸亜鉛処理に集約され、その他のリン酸塩処理については残念ながら特筆すべき内容は無い。(p221)

とのこと。

塗装下地とは・・・ずいぶん地味な仕事縁の下の力持ちですね!

私たちが載っている車にも、フォスフォフィライトちゃんが使われていたりするのでしょうか。

というわけで、wikipediaにも載っていないフォスフォフィライトちゃんのお仕事の話でした。

 

次こそは結晶成長の話か、あるいはホパイトちゃんの話をしようと思います。

それでは。