フォスフォフィライトを作ってみる(結晶成長編・その2)
記事の作成が遅くなってしまい申し訳ありません。
アニメ宝石の国を見た衝撃のままに後先考えずに書いてしまった記事でしたが、見てくださる方もいるようでうれしい限りです。
かなりおかしなテンションで書いたので後々恥ずかしくなりましたが・・・。
(最新刊も見て)だいぶ頭がクールになってきたので、まじめに書きます。
フォスフォフィライトの人工合成をやりたい! という方の参考になれば幸いです。
はじめに
これまでの考察の結果、フォスフォフィライトの人工合成に適した手法は熱水合成法であることがわかりました。しかし、熱水合成による結晶成長は手間と時間とお金がかかるため、現実的な手法ではありません。
俺は個人でフォスフォフィライトちゃんをつくりたいんだ!
そこで、今回はよりカンタンにフォスフォフィライトを合成できる(かもしれない)手法として、Single Diffusion Gel Growth法を紹介します。
Single Diffusion Gel Growth法とは?
日本語に無理やり訳すなら「一方向拡散ゲル内成長法」でしょうか。
1つめの記事(合成編)で、リン酸アンモニウムと硝酸亜鉛・鉄水溶液の中和反応によってフォスフォフィライトが合成されるという話を紹介しました(下図参考)。
この手法では、リン酸イオン(H2PO4-)と亜鉛・鉄イオン(Fe, Zn2+)がくっついてフォスフォフィライトが合成する反応があまりにも早いため、結晶化がいたるところで一気に進行してしまい微結晶となってしまいます。
つまり、この反応を遅くすることができれば、より大きな結晶が作れるかもしれないわけです。
そこで、フォスフォフィライトの結晶化をゲル内部で進行させ、結晶化が反応物(リン酸,金属イオン)の拡散によって強く律速されるような条件にすることで、きれいな単結晶を作ろう!
という手法がこのSingle Diffusion Gel Growthです(下図参考)。
1つの溶媒をゲル(ゼリーのようなぷるぷるしたやつ)にすることで、2つの溶液がすぐに混ざらないようにします。
その結果、水溶液中に存在するZn, Fe2+はリン酸ゲル内を徐々に拡散していくことになり、フォスフォフィライトの生成反応は遅くなります。
結晶化がゆっくりと進むことになり、きれいで大きなフォスフォフィライト単結晶をゲル内部につくることができるのではないか、というわけです。
先行研究の紹介
この手法に目を付けたのは、以下の論文を見つけたからです。
[1] Optical and dielectric studies of gel grown α-hopeite single crystal - ScienceDirect
この論文ではα-HopeiteをSingle Diffusion Gel Growthで作成しています。ホパイトとは以前の記事で説明した通り、フォスフォフィライトから鉄イオンを抜いた、リン酸亜鉛4水和物(Zn3(PO4)2・4H2O)のことです。
ほぼフォスフォフィライトじゃんこれ!
ちなみにこの論文では、上記方法で1週間成長させることにより、8×2×2mmのホパイト単結晶を得ています。水ガラス(メタケイ酸ナトリウム水溶液)+リン酸で作成したゲルを用いているようです。
また、他の論文を調べてみると、リン酸水素カルシウム2水和物(CaHPO4・2H2O)やリン酸水素鉛(PbHPO4)も同様の手法で作成されています。(文献は以下)
CaHPO4は21日の成長で1 cm超の針状結晶が、PbHPO4は2か月で8×6×2 mmの結晶が得られています。条件によって成長速度は大きく違うみたいですが、1 cm超の単結晶を作ることは十分可能なように思えます。
では、以上の先行研究を参考に考えた、フォスフォフィライトちゃん単結晶の合成実験方法を記します。
フォスフォフィライト単結晶合成計画
必要な物品
<薬品・試薬類>
- 硝酸亜鉛(Zn(NO3)2)
- 硝酸第一鉄(Fe(NO3)2)
- リン酸水溶液(濃度1 mol/L H3PO4)
- メタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)
- 純水
<実験器具・その他>
- ビーカー(500mLぐらい)
- 試験管(容量は適当)
- 試験管立て
- pHメーター
- はかり
- ピペット
- 薬さじ
- 薬包紙
実験方法
- 水ガラスをつくる。(密度1.06 g/cm3の水ガラスを作る場合、142.5 gのメタケイ酸ナトリウムを250 mlの純水に溶かす)
- 水ガラスに1.0 mol/Lリン酸を加える。pHは~6.5程度になるように。
- 手順2で作成した溶液を試験管に適量注ぎ、封をして定温(20℃ぐらい)で2日ほど静置し、均一なリン酸ゲルを作製する。
- 金属塩の溶液を作る。金属塩の総量が1.0 mol/Lとなるように、硝酸亜鉛と硝酸鉄を秤量し純水に溶かす。亜鉛と鉄の比率は適宜調整する。(フォスフォフィライトの組成から考えればZn:Fe=2:1だけど、これが最適かは要検討)
- 手順4で作成した金属塩の水溶液を、手順3で作成したリン酸ゲルの上にピペットで静かに注ぐ。栓をして、定温条件で試験管立てに静置する。
- 合成期間が長期にわたる場合は、10日ごとに金属塩溶液を交換する。
合成条件の検討
- 水ガラスの密度
- ゲルのpH
- 金属塩の濃度、および亜鉛/鉄の比率
- 成長温度
- 合成期間
主に上の条件で単結晶が生成するか、どんな形状になるかが決まると思われるので、色々条件を振って実験を行う。
天然のフォスフォフィライトにはMnなどの不純物が含まれると言われているので、合成条件がある程度確定したら試してみるといいかもしれない。
まとめ
かなりふわふわした実験計画ですが、上のような条件で1か月程度の合成を行えば、だいたい1 cm程度のフォスフォフィライトが合成できると思われます。時間はかかりますが、10日ごとに溶液を交換するだけの放置プレーでOKなので、かなり楽に大量生産ができるのではないでしょうか。
早速実験……したいんですが。
硝酸塩は酸化性が強いものが多く、個人で購入することはできないみたいです。
塩化物や硫酸塩とかなら手に入りそうなんだけどなぁ。
高校の先生とか、もし見ていたら化学部の実験にいかがでしょう?(成功は保証できませんが)
以上、フォスフォフィライトを作ってみる全4部はこれでおしまいです!
材料がどうにかして手に入れば「作ってみた」シリーズを投稿するかもしれません。
あと、気が向いたらユークレースちゃんとかベニトアイトちゃんとかアンタークちんとかについても考えてみるかも。
アンタークちんは相変化材料としてかなり面白い研究がされているみたいですね。
それでは。