フォスフォフィライトちゃん大好きクラブ

宝石の国からフォスフォフィライトちゃんを知ったにわかオタクが垂れ流すブログです。

フォスフォフィライトを作ってみる(結晶成長編・その1)

 はじめに

 

宝石の国第3話、見ました?

ダイヤモンドちゃん大活躍でしたね。次の話が楽しみです!

 

さて。

前回の記事では、フォスフォフィライトを合成する方法を説明しました。

フォスフォフィライトを作ってみる(合成編) - フォスフォフィライトちゃん大好きクラブ

今回は、上記の方法で得られるフォスフォフィライト(粉末)を単結晶にする方法を調べていこうと思います。

ある程度の大きさの単結晶を成長させるための手法として、代表的なものを以下に記します。

 

手法 過程 圧力域 温度域 大変さ
気相成長 気相→固相 大気圧以下 沸点以上 かなり大変
融液成長 液相→固相 大気圧 融点以上 そこそこ大変
溶液成長(水系) 液相→固相 大気圧 100℃以下 かんたん
溶液成長(非水系) 液相→固相 大気圧 500℃以上 けっこう大変
熱水合成 液相→固相 高圧 100℃以上 かなり大変

 

では、フォスフォフィライトちゃんの育成法としてどの方法が妥当か検討していきましょう。

判断基準は以下の感じで。

 

  • 透明な単結晶が得られる
  • サイズは1 cm程度は欲しい
  • 実現可能な方法(あまりにも高価な機器や危険な薬品は用いない)

 

さっそくいってみよう! まずは気相成長! 

 

気相成長

 

気相成長とは、育成する物質を高温で蒸発させたのち、特定の部位で結晶化させることで単結晶を得る方法です。

最も有名なものとしては、ヨウ素の昇華による結晶化実験がこれに該当しますね。水蒸気から雪の結晶を作る実験もこれでしょう。

 

www.youtube.com

 

一例として、半導体であるセレン化亜鉛(ZnSe)や炭化ケイ素(SiC)、青色LEDの窒化ガリウム(GaN)やダイヤモンドもこの手法で作製されています。

 

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CVD(化学気相成長)による合成ダイヤモンド(W. Wang, et. al., Gems Gemol., 39 (2003) 268-283.)

 

ただ、1000℃以上の高温と気密容器、場合によっては大変危険な反応性ガスを用いる必要があるため、コストの高い手法です。 

今回の調査では、リン酸塩系の単結晶を昇華法で作っている報告は見つけられませんでした。Sigma-Aldrich社のSDS(安全データシート:試薬の取説みたいなもの)では、リン酸亜鉛(Zn3(PO4)2)の融点は846~855℃、昇華点はデータなしとなっています。

Zinc phosphate 99.998% trace metals basis | Sigma-Aldrich

 

また、同物質は高温で分解することが示されています。フォスフォフィライト(Zn2Fe(PO4)2・4H2O)も同様の性質を持つことが予想され、これを気相法で作るのは不可能のように思えます。というか水和物は気相法では無理でしょう。

 

融液成長

 

融液成長は非常に単純な方法です。材料を融かして固めるだけ。冷凍庫で作る氷の結晶成長が、その最も身近な例です。

 

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純氷 - Wikipedia

 

合成宝石の分野では、サファイヤやルビー、スピネルやアレキサンドライトなどがこの手法で作られ、代表的なものとしてベルヌーイ法(火炎溶融法)やチョクラルスキー法(結晶引き上げ法)等が知られています。

 

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ベルヌーイ法で作られた合成スピネル(引用:合成宝石素材入門)

 

しかしながら、気相成長の際に示した通り、フォスフォフィライトは融点を持つものの、高温で分解するうえに水和物であるために融液から成長させることは不可能です。

次行きましょう。

 

溶液成長(水系)

 

溶液成長とは、溶媒に材料を溶かし、溶解度の変化を利用して単結晶を合成する方法です。身近な例としては、塩やミョウバンの結晶成長実験が挙げられます。

 

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溶液成長(水溶液)で成長したミョウバンの結晶(引用:Cochise College)

 

溶解度を変化させる方法としては、温度差を利用する方法と、蒸発によって溶媒の量を減らす方法の2種類が使われます。(組み合わされる場合も多いです)

ちなみに、ミョウバンは化学組成にするとAlK(SO4)2・12H2O。複塩で水和物とフォスフォフィライトちゃんと似ている! これはいけるかも!

 

しかし、残念ながらフォスフォフィライトちゃんは水にはほとんど溶けないのでした・・・。世の中はうまくいかないことばっかりだ。

 

溶液成長(非水系)

溶けないのであれば溶ける溶媒を探せばいいじゃない。ということで、水以外の溶媒を用いた単結晶成長も広く知られています。

この手法はフラックス法とも呼ばれ、合成宝石の分野ではエメラルドがこの方法で作られています。

 

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フラックス法で作製されたエメラルド(引用:合成宝石素材入門)

 

溶媒としては、比較的低融点の無機化合物(エメラルド)や、溶融金属(ダイヤモンド)などが用いられます。

成長させる結晶と比べて比較的低いとはいっても、フラックスの融点は1000℃を超えるものがほとんどであり、水系と比べると合成の難度は格段に上。

いくつかのリン酸塩化合物はこの手法で単結晶合成されているようです。

 

しかし、フォスフォフィライトちゃんの場合を考えると、やはり水和物であることがネックになりますね。

フラックス法は完全に非水系であり、水和水を組み込める余地はいっさいありません。

 

ここまでいろいろな合成法を見てきましたが、4戦4敗。全滅です。

フォスフォフィライトちゃんの未来はどっちだ!?

 

熱水合成

 

これがラストの方法になります。溶けないのであれば無理やり溶かしてしまえばいいじゃない。というコンセプトの熱水合成法です。

 

この方法を代表するものといえば水晶の人工合成。当たり前ですが常温常圧の水に水晶は溶けません。しかし、高温高圧のアルカリ性水溶液には溶けるのです。

アルカリ性の水溶液を原料と共に密閉容器に入れ、成長温度約400℃、圧力100 MPa程度で数日~数週間程度成長させます。

 

一見無理やりな方法に思えますが、鉱物の多くは地球の奥深くで高温・高圧下で長時間かけて成長することを考えると、この手法は、地球上における宝石の成長条件に最も近い方法といえます。

 

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42日間の熱水合成により得られた合成水晶(A. C. Walker, J. Am. Ceram. Soc. 36 (1953) 250-256)

 

この手法は他のリン酸塩単結晶の成長にも使われています。フォスフォフィライトちゃんと近い化学組成を持つ物質を探してみると、例えばCuK(PO4)・H2Oの微結晶合成に熱水合成法が用いられています。(J. Xu, et. al., J. Alloy. Compd., 494 (2010) 319-322.)

リン酸の複塩でしかも水和物! この方法ならフォスフォフィライトちゃんを育てられそうです。

では、この論文の成長条件に付いて詳しく見ていきます。

 

この論文では原料として酢酸銅(II)とリン酸カリウムを、溶媒には水とエタノールを1:3で混合したものを用いています。(粉末のフォスフォフィライトちゃんを予め合成しておく必要はなさそうですね)

原料と溶媒をキャピラリーに密封したのち、オートクレーブ内で180℃ (24時間)成長を行うことで、100 μmのサイズの結晶が得られるようです。

 

100μm/日ということは、1 cmに成長させるために100日・・・。

 

待てない日数ではありません(結晶成長には時間がかかるものです)。それに、種結晶を用意して成長位置を制御すればもう少し早くなるでしょう。

しかし、その間オートクレーブを動かし続けることを考えると、電力消費がとんでもないことになりそうですね。用意する器具が多く、機器や容器が耐えられるかという問題もあります。

 

まとめ

 

非常に長い記事でしたが、ここまで付き合ってくださった方はありがとうございます。

 

ここまで5つの結晶成長方法を見てきましたが、見込みがあるのはただ1つ、熱水合成法だけでした。

おそらく、企業が水晶の人工合成に用いているような大型の装置を用い、数か月の時間をかければ、フォスフォフィライトちゃんの人工合成は可能でしょう。

しかし、現実的な解決策ではありません。

 

5戦4敗1引き分け。どうやらありきたりな結晶成長では、フォスフォフィライトちゃんの育成方法としては力不足のようですね。

まったくもって手間のかかる(かわいい)。

 

早速行き詰ったように見えますが・・・実は、フォスフォフィライトちゃんの単結晶合成にぴったりな方法を1つだけ見つけました。

その手法を用いれば、たった1日で8 mm×2 mm×2 mmのフォスフォフィライト(単結晶)を成長させられそうです。

 

その成長法に関しては次回の記事で説明します。

次回、フォスフォフィライトを作ってみる(結晶成長編・その2)

乞うご期待!